世の中どこでも高学歴社会。そうなった責任は学歴のない人たちにもある。

 昨日、こちら福井に来てから親しくなった近くの町医者が、友人と言う男を連れて遊びに来た。車で来たので酒を奨めなかったが、久し振りのこととて2,3時間も話は弾んだか。
 たまたま話題が、大阪にいる「何かやってくれそうな」と目下、人気沸騰中の知事の話になって、その連れの男が何を思ったか「アナタはどこの学校の出身ですか」とボクに訊ねるのである。
「ボクは名も知れぬ大学ですよ」と笑って答えず、「ボクの出身校を訊くアナタはどこの出身ですか」と心ならずも逆襲すると、「私はしがない高卒ですよ」と、申し訳なさそうに答えた。
「私の友人に東大を出たのや、一橋を出たのがいますが、いずれも優秀ですな」と誉めちぎるので、「どんなところが優秀かね」と訊けば、「子供の頃から頭がよくて、今でも言うことが立派ですわ」と言う。ボクはもうそれ以上は取り合わなかった。
 そして二人を前にして、ボクはこんな話をした。
 「会社暮らしをしていた頃、ボクの下に東大出身の課長が赴任して来たことがありました。周りの課長連中が集まって『今度来た、どこそこの課長は東大らしいな。東大出というのはやっぱり優秀だな』と噂をしているので、『ほう、そんなに優秀かね。ボクはそう思わんがな』と言いましたが、それから数ヶ月もした頃、ある課長がやって来て『あの課長、東大出と聞いてましたが大したことないですな』と言うのですよ。
 『それみたことか。ボクはそう言ったろう?お前たちは観察もせず、東大だからと言ってハナカラ優秀だと決め込むのかね?』と、高卒出の管理者を集めて、こんなことを話しました。
 『君等、一杯飲んだりしたときなど、うちの会社も世の中も、学歴があるからと言ってロクデモない奴がスイスイと上に登りつめるのはおかしいじゃないか、人事は適材適所でなければならない。あんな奴より課長に相応しい人物は幾らもいる、と慨嘆するだろうが。それは正論なんだよ。そんな正論を吐く君等が、今度来た課長は東大だから優秀だろうと、仕事振りを見ずして言うのは矛盾してはいないか?』
 『いいか。会社や世の中を動かしている連中は、みんな高学歴者だよ。高学歴者自らが「学歴社会はおかしい」なんて言う訳がないだろう?「こんな学歴尊重の仕組みを変え、実力者登用の世の中にに変えなければならない」と声を上げるべきは、君たちなんだよ』
 『平素から「学歴社会はおかしい」と言っている君たち自らが、学歴社会を是認していることにならないかい?学歴のある連中がノウノウとさせている責任が、君たちにもありはしないか』とね。
 「学歴と人間の価値との間には、何の相関関係も無い」と断じるボクの話を神妙に聞いていた二人は、どんな感想を持ったことでしょう。ただ黙って帰って行った。