懐かしい真空管アンプが、とうとう我が家にやって来た。


 30数年愛用して来たマッキントッシュのファンクションSWが不調で、だましだまし使っているが、新しく真空管アンプをメインにして、マッキントッシュは裏方さんに回ってもらうことにした。貧乏なボクに数十万円もする買物は出来ないが、インターネットでSPECなど丹念に調べて決めた真空管アンプが、とうとう我が家に届いた。
 ボクは中学2年の頃から結婚するまで、いわゆるHiFiマニアだった。スパイラル・コイルを巻いて自作した鉱石ラジオから、「こちらはNHK第一放送です」と聞こえた感激は、多くのラジオ少年と同じで、忘れられないなぁ。
 そのうちモーツアルトベートーヴェンだと言うようになって、作っては壊し壊しては作る自作のアンプで、NHKの音楽番組を追いかけて聴いたものである。78回転のSP盤から長時間で音質のいいLPレコードが出る頃には、「病膏肓に入る」じゃないが、SPまで自作し、押し入れを巨大SP・BOXにして、大音響でガンガンやるので、隣のオッサンから「お前がブンチャカ・ブンチャカやり出すと、飯も喉に通らない」と文句を言われたものだ。
 ST管の6ZPI,42という出力管をご存知の方は、もう少なかろうな。大方の人は「ST管とは何のことかいな」でしょう。ST管に2A3という直熱形の3極管があるのを、好事家なら多分ご存知だらうが、能率の悪いSPを出力の出ない2A3で如何に鳴らすか、テスター1丁で血道をあげたものである。
 暫くはGT管の時代が続いたが、小型で高能率なMT管が取って代わり真空管アンプの爛熟期を迎える。しかし「3極管は音がいい」という神話は生き残っていて、いまだにSTの3極管アンプが喧伝され人気が衰えない。
 真空管アンプの談義をすれば1冊の本に入り切れない程あるが、結婚して子供が半田鏝の周りをゴソゴソするようになってからアンプ作りを断念し、既製のもので聴くようになって、早いもので半世紀になる。
 本当に久しぶりに聞く真空管の音である。ホヤがぽーと赤く点るのもいいし、何より出て来る音がいい。プリとメイン合わせて80万はしたと記憶しているマッキントッシュは、Tr型アンプには珍しい巨大なOPTを備えているグレードの高いアンプであるが、やはり音の次元が違う。好みの問題でもあろうが、ボクには懐かしい安らぎの響きが聞こえてくるのだ。