4月1日朝6時、田圃にうっすらと氷が張って、シュタルケルのチェロが朗々と鳴る。

 今日から4月だと言うのに、田圃に氷が張っている。こう寒いとミシェールとする散歩は早足になって、ハァハァ息を切って帰って来た。
 毎朝するルーチンを終えると8時。コーヒーを淹れ、昨日届いたシュタルケルが弾く「バッハ:無伴奏チェロ・ソナタ」を聴く。
 結婚して間もなくして買った、同じシュタルケルのレコードを愛聴して来たが、ノイズが気になり出したので録音も新しいCDを注文した。
 始めて聴くレコードには、いつも緊張し胸がときめいたものだった。期待に胸膨らませながらレコードをターンテーブルの上に乗せ、その回転が安定するまで一呼吸を置いてから、やおら緊張しながらカートリッジを静々と降ろす一連の動作に、音楽好きは何かしら儀式のようなものを感じていたのだろうな。
 今は音もなく出てきたトレイにCDを乗せて、無造作にポンとボタンを押すだけで音楽は始まり、好きな楽章だけを簡単に繰返して聴け、終われば自動的にプレイヤーは止る。イージーなものである。
 新しい録音環境で作られたCDは、聴き慣れたレコードとは、まるっきり音の鮮度が違う。目の覚めるような朗々たるチェロの響きがする。
 レコードとCDの間には半世紀に近いタイムラグがあり、日進月歩のテクノロジーの乖離を感じさせられるが、チェリストとしてのシュタルケルの演奏スタイルに、半世紀に及ぶ変化があるとは思えないし、聴き終わっって感じるものに変わりはない。
「CDよりレコードがいいに決まっている」という思い込みか、ボクの「バッハ:無伴奏チェロソナタ」に対する感性が、すっかりが朽ち果て生気を失くし、化石のようになってしまっているからだろうか。