盲目の人権活動家・陳光誠氏とアメリカ

 惨憺たる連休ではなかったですか。「晴れ間が広がる絶好の行楽日和が続きましょう」と言う予報は見事に外れ、豪雨だの竜巻に見舞われて関東から東北にかけ甚大な被害を蒙るなど、ご難続きの日本列島でした。
 恒例の「ラ・フォル・ジュルネ金沢」に出掛け、久し振りに生演奏を聴きましょうと思ってましたのに、激しい降雨に断念しプールのお休みも続いて、ミシェールと閉じ篭った連休でした。
 連休が終わると皮肉なことに五月晴れが続いて、この辺では晩生の田植えも終わり周りの田圃からは人影が消え、また
静けさを取り戻した山里です。
 ここ暫く、中国の人権活動家・陳光誠氏の動向が新聞・TVで報じられています。目のご不自由な陳氏が、絶大な国家権力に立ち向かって人権擁護の活動を続ける信念と勇気に、心より賛辞を贈りますが、人権問題が中国で発生すると必ずと言っていい程、アメリカがしゃしゃり出て来るのは何故でしょう。
 人権が侵害されているのは、何も中国に限られているものではありません。国家権力によって強引に統治を進めようとすれば、国民から人権を侵害しているという声が上がるのは当然のこと。人口13億5000万の中にあって、陳氏はその国家権力に反旗を翻す一人に過ぎません。
 アメリカには人権侵害がないのか?冗談じゃない!「人間は神の子、みんな同じ」と説くキリスト教国のアメリカに、長い黒人差別の歴史があり、今なお厳然たる人種差別が特にアメリカ南部辺りには、色濃く存在します。 
 2001年のアメリ同時多発テロ以来、10年が過ぎる今も国内外の非難の声に耳を貸さず、テロ撲滅という名の下、グアンタナモ収容所には謂われなき多くの人たちが収監され、その人権が侵害され続けています。
 中国で人権に係わると思われる事件が発生すると、すかさず反応し「中国は世界に冠たる人権侵害国家」と囃し立て、「我等は人権十字軍なり」と手を出し金を出すアメリカのお節介は、発展し続ける太国中国が敵として余程脅威に写るのか、それとも長年に亘る自分が犯してきた同じ過ちには気付いていないのか、どちらかでしょう。
 どこの国であれ人権が侵害されている事実があれば、世界中が注目し真相を突き詰めて、その非合理性を糾弾し侵害行為の撤回を勧告して、侵害の排除に尽力すべきことに論を待ちませんが「人権侵害といえば中国」と目の敵にするアメリカは大人げないと、ボクは思うのですが。
 日本にはアメリカ寄りの、と言うよりアメリカ発の情報しか知らされていません。ボクらが聞いたり見たりするニュースは全てアメリカ発。尖閣にしても油田開発の問題にせよ、みんな中国が悪い。中国をまるで侵略者のように言う。中国の懐の深さから今までに日本が利益を得て来たことには触れもせず、中国側の体制整備が進んで「濡れ手で粟」の日本の利潤追求に注文が付いたり、体制整備によって手続きが複雑にでもなれば、排日運動であるかのように報じられますね。
 中国だけではなく、中東やアラブ諸国の情報も全てはアメリカから。これで独自の情報網をもたない日本が、経済や外交面で独自性を持つことなどできるはずがなく、顔を失った日本、アメリカの傀儡に過ぎない日本です。
 陳氏はアメリカへ行きたいそうです。家族の安全が担保されないので暫くはアメリカにいて、いずれは中国に帰って来たいそうです。アメリカも留学生として受け入れるとか。結構な話じゃありませんか、羨ましい。
 人口13億5000万の中国、身体にハンデ・キャップがありながら人権を侵害されている人は大勢いるでしょうが、「ボクはこんなに不利益を蒙っている」とアッピールすれば、それら活動家は全員アメリカに行けるかと言えば、そうはならないでしょう。
 陳さん。目が不自由というハンデを持ちながら、巨大な国家権力に対して「ノン」を突きつけて来た貴方に、何度も申しますが「エライ。よく頑張りましたね」と敬意を表します。
 しかし陳さん。貴方の周りには、国の弾圧にも屈せず「ノン」と言い続ける人たちがいますね。その中には貴方と同じように身体にハンデを持った人もいるでしょう。その人たちと力を合わせて、中国に踏みとどまって活動を続けることは出来なかったですか。御免なさいね。貴方がたが受けた惨たらしい仕打ちを知りもせずに、済みません。
 もう少し言わせて下さい、陳さん。
 「中国の国籍を喪失する気はなく、いずれは中国に帰りたい」と、愛国心に溢れる貴方の、国を愁い国を正したいと言う思いが、貴方が移り住んだアメリカから発信して果たして世界中の人や中国の人たちの心に響くでしょうか。中国にあって迫害や嫌がらせに屈せず声を出し続ける貴方の活動にこそ、世界を動かす力が秘められていると思うのですが。
 平和な日本の山里に、のうのうと暮らす老い耄れの、己を省みない戯言です。どうか、その非礼をお許し下さい。
 貴方がご家族揃ってアメリカに移り住まれることを、心から願っています。