「灯火親しむ頃」だというのに、この暑さ!ボクの鼻先にブラ下がっているガラス障子とは、半世紀を越えるお付き合い。

「読書の秋」とか「灯火親しむ候」とか言うが、とてもそんな気分にならない程、真夏のまんまの9月の入り。
 この頃になると、田舎のあばら家で大きな蚊帳を半分にした中で本を読んでいると、滅多なことで物を言わなかった親父が、「そんところで本を読んでいると、目を悪くするぞ」と言ったのを、きまって思い出す。
 貧しかった家に、電気スタンドなんてものがあるわけなく、蚊帳を低く吊り電気の笠を蚊帳スレスレに降ろして、蜜柑箱を引っくり返えしたような机を蚊帳の中に持ち込んで、受験勉強をしたものである。本の上には蚊帳の格子の影が写っていた。そう言えば扇風機もなかったな。
 近視になっている自覚は全くなく、就職試験の身体検査の折「メガネをしてないのか。コレではドライビング・ライセンスも取れないぞ」と言われて、始めて近眼だと知った。
 初めて貰ったサラリーか、2度目のサラリーで買ったものか、我が鼻先にガラス障子がブラ下がってから、54,5年になる。40半ばを過ぎて遠近両用となり、今頃はPC用に遠・中・近の3層レンズのお世話になっている。
 妻の生前、「こんなところにメガネが下がっていて、鬱陶しくない?」と聞かれたが、不思議と言えば不思議、鬱陶しいと感じないのは、「無くてならない、体の一部」と思っているからでしょうね。