「喋りながらピアノを弾くなよ。ピアノを弾くなら一途に弾けよな」。こんなラジオ番組を何時まで続ける気だろう。

 朝5時頃、除雪車が前の道を通る音がする。カーテンの隙間から裏の杉林を覗くと、除雪車が走る筈、ずっしりと杉の枝に冠雪している。前の庭木は、どれもこれも着雪して今にも折れそう。

  FMをかけると、喋りながらピアノを弾いている。喋りながら弾くピアノなんて、チャラチャラしたもの、お喋りも取るに足らないチャラチャラ。「こんなクダラナイ番組を随分と長くやってるな。ピアノを弾くなら弾くで一途に弾けよな。そんなチャラチャラしたもの聴きたくもないナ」とSWを切って、雪の降る中をミシェールと外に出た。
 丁度その時、わが家の前に部落の除雪を終えた除雪車が戻ってきた。運転席の男がボク等を見て笑いながら何か話し掛けるが、エンジン音が大きくて聞き取れない。ボクが手を上げると、同じように手を上げて通り過ぎて行った。正月5日の朝5時を廻ったばかり、薄暗い雪道での心通わす一瞬の出会いであった。