79才になって(3)

 ボクの誕生日から3日連続して、雪なく晴れ間が続き気持ちも晴々。
 今日は、昨年10月19日から通い始めたスイミング教室の23回目。春先のような暖かさの中を帰って来て、ミシェールと昼の散歩に出掛けるところである。


 ボクに本を読む楽しみを教えてくれたのは、中学の2級上の先輩である。その先輩もボクと同じ一人っ子、ボクを弟のように可愛がってくれた。
 先輩のお父さんは高校の国漢の先生で、お宅の本棚には蔵書がぎっしりと並んでいた。
 「本を読むんだよ。本の中には君が知らない世界が一杯に広がっている。そして君が其処に訪ねて来るのを、本は待っていてくれてる。その世界は君の想像力を掻き立て、君を夢多き心豊かな人間にしてくれると思うよ。勉強しろとは言わないが、本を読む、本の好きな人間になれよ」と、諭すように言ってくれた先輩の顔を思い出す。
「いろいろあるけど、これから読み始めるといい」と言って手渡されたのが、岩波文庫の「チェーホフ(中村白葉訳)」だった。当時のロシア文学と言えば、中村白葉訳のものしかなかった。
 兎に角、始めて読むチェーホフは面白かった。貸していただいた岩波文庫を、片っ端から貪り読んだ。ツルゲーネフトルストイドストエフスキーと、先輩宅の本棚にあるロシヤ文学は殆ど読ませてもらった。
 ロシヤ文学を読んだ方なら同じ経験をお持ちだろうが、物語に登場する人物の名前がなかなか憶えられなくて、最初のところに何度も戻って、「ああ、あの人は、この人だったか」と、再確認しながら読み進んだものである。
 今にして思えば、中学2,3年の頃は凄い馬力で本が読めたものだと驚いている。旱魃の地に、雨水が浸み込んで行くようなものだったろうか。ボクはすっかり本好きの中学生に変身して、以来、本との付き合いは60年にナンナンとしている。