「唱歌集」を広げ口ずさんで涙を流す意気地のない話は、もう終わりにします(final)。

寒さはそこそこでも雪ですよ、雪。また降り積もるのでしょうか。
 今朝の朝日新聞のオンラインニュースに、こんな記事が載っています。
 何処かの国税局が、相続税を払えない遺族が物納した、100年前の水陸両用車など世界の名車9台を、競争入札で競売するとか。
 その中には、1913年式の英国製「ACソサイブル」、そのライトは何と「ガス灯」だそうです。木製のホイルが付いた「シュード・ベーカー」ほか、カー・マニア垂涎の車ばかり。貧しいボクは、ホッと溜息を吐くだけ、また大金持ちの所有するものになるのでしょう。
 暫く、懐かしい唱歌を歌って涙を流す意気地なしの話を続けましたが、こんな生き恥を曝すような老い耄れの繰言は、これを最後にお仕舞いにします。
 ボクが旧制の中学に入った頃、四高(今の金沢大の前身)生だった従兄弟が歌っていた寮歌を、忘れることはないでしょう。「寄宿舎の古釣瓶(つるべ)」、当時の男子学生が、よく歌ったものです。
 ご存知の方は、少なくなったことでしょう。歌える方は、もうおられないのではないか。
      
             『寄宿舎の古釣瓶』

        一 縄こそ朽ちたれ この古つるべ
            桶こそいためれ この古つるべ
          学期試験の準備につとめし
            幾千(いくち)の学生が脳充血を
          冷やして癒さん氷となりぬ
            彼等が事業(わざ)を助けん為に
          雨の日雪の日つるべのなわの
            休まる時なく汲まれしつるべ
              屋根もる月こそ昔を知らめ

        二 縄こそはねたれ この古つるべ
            苔こそむしたれ この古つるべ
          運動会の競技にきおいし
            幾その侠児(チャンピオン)が背中の汗を
          洗いて落とさん浴湯(あみゆ)となりぬ
            彼等が元気を回(かえ)さん為に
          夏の日冬の日轆轤(ろくろ)の音の
            絶えにしひまなく汲まれしつるべ
              軒ふく風こそ昔を知らめ

 白線を巻いた学生帽を被り、釣鐘マントに厚歯の下駄を履いた旧高校生に憧れ、バンカラ(注釈が必要な時代になりましたか!?)で硬派な学生の姿に魅せられて、ボクが歌えるのは最初の1,2節だけの歌を、蛮声を上げて歌う従兄弟の顔をしげしげと見上げたものでした。
 ボクを弟のように可愛がってくれた従兄弟は、もういません。「縄こそ朽ちたれ、この古つるべ」と口ずさめば、涙が流れて止みません。