左弦の半月を見上げながら妻を思った。

 ここ数日、夕立もなくデッキに置いたガーデン・テーブルの上で夕食している。
 昨晩も西の端に日が沈み涼しくなってから、お粗末な肴を並べてビールのグラスを傾けると、明るさの残る空に右弦の半月が見える。デッキは真南を向いているが、月は真南から少し東に出ている。やがて西の彼方に移動して、此処からは見えなくなるだろう。
 Dのような形をして突っ立っている月を見ていると、「芦屋にいた時分マンションのベランダから、妻とこんな月を見たな」と思い出した。どんな会話を交わしたか憶えてないが、大阪湾の上に出ていた月と、向かいの山の上に出ている月に変わりはないのに、今はボクの隣に妻の姿はなく独りで同じ月を見上げている。
 グラスを上げて、月に向かい「かあさん、元気にしてるかい。ボクはこの通り元気でいるよ」と声を掛けた。
 こんな月明かりの夜には、芦屋にいた頃からドビュッシーの「月の光り」を聴いたもの。「かあさん、またドビュッシーにしますか」。