物思う秋です。あなたは何を思うのでしょう。

 「台風一過」とはよく言ったもの。台風18号は国土のあちこちに災害の爪痕を残しながら、爽やかな秋をも連れて来た。季節の中でボクの最も好きな物思う秋に、先ず心に浮かぶのは何度も言うようだけれど、やっぱりヴェルレーヌの「落葉」。
     
          秋の日の
          ヴィオロン
          ためいきの
          身にしみて
          ひたぶるに
          うら悲し。

          鐘のおとに
          胸ふたぎ
          色かへて
          涙ぐむ
          過ぎし日の
          おもひでや。

          げにわれは
          うらぶれて
          ここかしこ
          さだめなく
          とび散らふ
          落葉かな。
              訳:上田敏

 フランス語の分からないボクが、こんなことを言ってはいけないか。「この翻訳は原詩を超えている」とな。
 もっと穏やかに言うなら、「上田敏の翻訳がなければ、このヴェルレーヌの詩は、こんなにも広く知られることはなかっただろう」と。
 上田敏は斯く言う。
 「フランスの詩はユーゴーに絵画の色を帯び、ルコント・ドゥ・リイルに彫刻の形を具え、ヴェルレーヌに至りて音楽の声を伝え、而して又更に陰影の匂なつかしきを捉えた」。
 言うように、鮮やかにカラフルな形相を浮かび上がらせ、音楽が流れ、物思う陰影を見事に捉えた名訳でしょう。
 秋にこの詩がある、この詩を知っている喜び。
 また何度も同じことで恐縮、秋を感じてボクが最初に聴く室内楽と言えば、「シューベルト:弦楽五重奏曲、D.956」。秋が体に染み入ってきます。