ボクの夢が知りたい?陳腐なチンケな夢ですよ(1)。

 秋の柔らかな日差しを浴びてキラキラと羽を輝かせながら、赤トンボが庭の中を舞っています。
 80にもなる爺の夢が知りたいと言うのですか?夢は自分の胸の中にそっとしまって置くものですが、恥ずかしながらお話しましょうか。
 山里にログハウスを建て、外国にも棲家を建てて、日本との間を行ったり来たりする暮らしについては、何度も話しましたので繰り返しません。
 癌を患って急遽帰国し、グアテマラの家も売り払って、癌の再発を怖れながら当分は日本に蟄居していると決めてから今日まで、早いもので8年です。
 その間、年々老いて体力の減退を自覚するようになり、東欧の田舎で暮らしたい、キリマンジャロを死ぬまでに此の目で見たい、などと言う夢は断念して、もう死ぬまで此処にいるのだから、好きな調度品に囲まれて静かに余生を送ると考えましたね。決めたら走らずにおられないボクは、財布をはたいて欲しい物を買い漁りました。
 2mを超える時計(Grandfather clock「おじいさんの古時計」とも、Hall clock「ホール・クロック」 とも言います)に、イングランド製の3人掛けのソファとオフィス・チェア、ボクの身の丈より大きい鉄製の西洋甲冑だの、間もなくビッグサイズのステンドグラスのランプが届きますが、1年半ほどの間に、広いリビング・ルームが手狭に感じるほど物が増えました。欲しい物を並べるとキリがなく、「懐加減から考えたら、ここらあたりが限度か」と、漸くストップ。
 さァこれからボクは、これら調度品に囲まれどっかと腰を下ろして気分よく、読書と音楽三昧の暮らしができるようになった、筈でした。