女の柔肌に触れもせず、これで終わるのか!?(1)

 もう3週間になるか、暫くぶりに学生時代の友人が夫婦連れで寄ってくれた。3年前、21才若い女性と再婚して、見るからに若返った感じで「再婚して良かった」としみじみ述懐して、ワイフともどもボクに再婚を勧めるのだ。
「妻が先立って26年。ボクの中の妻は年々優美になって、この世にこれ以上の女性は存在しないだろうと思う存在になって、何時もボクの側で微笑んで話しかけてくれる。ボクは幾つかの夢を適え、子供も孫もそれなりに成長して人並みに生きている。これら全ては彼女の支えがあったから出来たことだと、妻への感謝の日々を送っていて、今は不自由を感じるものは何一つない」と言えば
「その26年の間、女の柔肌を恋しいと思ったことは一度もないのか。自分を偽ってはいけない。女を抱きしめ心通わせて、共に苦楽を分かち合うという人間らしい器量は、気楽と言えば気楽な一人暮らしの中で、枯れ失せてしまったか。お前さんは怪談話に出てくる亡霊を抱き締めて、恋しい恋しいと夜な夜な涙を流している情けない男のようだ」と切り刻まれた。
 再婚して有頂天になっている男との隔たりは埋まらない、とボクは話題を変えたが、
「再婚しろよ。女なら俺が世話するからな」と何度も言い残して帰って行った。ボクを気遣ってくれる心情が痛いほど伝わって来た。
 舌鋒鋭く「女の柔肌が恋しくないのか」と迫られて返す言葉がなかったし、ボクはこのまま女に触れもせず死んでいくのか思うと無性に寂しい。親しいからこそ情け容赦なく鋭く切り込まれて、妻への思いに揺るぎはないけれど、ボクは長いことセンチメンタルな世界に埋没していたのかと、過ぎ越し方を省みている。
 プールに行く時間になった。